どんな子にもきっと、大切なぬくもりで安心させてくれるものがあるでしょう。たとえばぬいぐるみや人形、毛布、また、子犬や猫、子猫、アヒル、豚などの生き物も、大切なぬくもりではないでしょうか。
赤ちゃんのときからあったものや生き物との出会いには、小さなころからの肌と肌のスキンシップ、におい、触感などがとても大きく影響します。その出会いは、赤ちゃんの小さな胸の中に愛を起こし、大きくなったら温かい思い出になるでしょう。
あなたが小さいころ、どんな生き物がいましたか? 大切なものを覚えていますか? どんな気持ちでしたか? それから今、お子さんにどんなものを渡しましたか? お子さんは今、気になっているものがありますか?

私が小さなころからずっと持っていた人形は、柔らかくてふわふわしたぬいぐるみではなく、かたくて重い、プラスチックの人形でした。もし転んでぶつかったら、とてもかたいのでこちらがケガをするような人形です。今でも部屋に置いてあります。不思議なことに、人形のブランドネームは“テリー・リー・ドール”。いつもその人形と遊んでいたので、髪の毛はあまり残っていません。

長女のくにみは赤ちゃんの時、大きなベビーベッド(crib)に寝ていました。本人は小さく、ベッドは大きいので、いつもベッドの下(足をおくところ)には小さなぬいぐるみをたくさん置いていました。人形たちに、軽い毛布をかけて寝かせていましたが、これを危ないとは思いませんでした。
ある日娘の部屋から変な泣き声が聞こえ、急いで見に行きました。娘がまだ小さく、動くと思っていなかったころでしたが、なんと娘は毛布の下にさかさまになり、ベッドの下のほうの人形たちのところまで入りこみ、逃げることができなかったのです。息も苦しくなり、大変でした。とても危なかったです。あの日からベッドの上に人形を置くのをやめました。新米の親にとって、とても恐ろしいことを学びました。

それから少し大きくなったくにみの一番大切な“友達”は、小さな白い犬のぬいぐるみでした。名前はLucky。今でも彼女にとって大切な友達です。寝るときも外へ出かけるときも、いつもいっしょでした。
東京に住んでいる間、年一回アメリカにいるおじいちゃんとおばあちゃんに会いに行きました。飛行機では、Luckyは必ず娘の手の中。2人は仲が良く、いつもにこにこ幸せでした。
Luckyは大変な冒険もしました。ある時、アメリカから成田に到着して、車で東京の家に戻ったとき、Luckyが迷子になりました。探しても探してもいないのです!  涙がポロポロとこぼれました。
急いで空港に連絡すると、探してくれると言ってくれ、娘は少し落ちつきました。次の日、仕事でこどもの城にいるとき、大切な連絡がありました。
Luckyが無事に見つかったというのです!! 飛行機の席にいたそうです。くにみはとても喜んで、すぐに成田の航空会社まで取りに行きました。やっぱり、大切な友達は必要! 重要です! 人形も生き物と同じではないでしょうか。ぬいぐるみのからだの中には、お子さんの希望や愛がたっぷり詰まっています。大切にしなければならないのです。

 



くにみの大切な友達、Lucky。
次女のまゆかと大事なぬいぐるみとの出会いは、普通の出会いではありませんでした。
まゆかは帝王切開で生まれました。私は妊娠したあとも、幼稚園の先生として子どもたちに教えていたのですが、私の胎盤が剥離して、帝王切開をすることになりました。その頃、サンフランシスコではあるウイルスが流行し、たくさんの子ども達が病気になっていました。知らないうちに私とまゆかにもそのウイルスが感染してしまっていたのです。高熱が出て、まゆかの命も危ぶまれ、約2週間、まゆかは保育器で過ごしました。
先生は、病気のまゆかには生きる刺激が必要で、そのために小さな保育器の壁に家族の写真などを貼ることは大事、とおっしゃいました。そこで、まゆかの姉・くにみが大きく笑っている写真を貼りました。私は病院の売店で小さなぞうの人形を買い、保育器の中のはしっこに座らせました。そうすればまゆかは一人ぼっちにはなりませんから。

あの時から今まで、まゆかはそのぞうといっしょです。まゆかも飛行機では「ぞうさんといっしょだから安心」とよく言っています。名前はmy elephant。日本でTシャツや運動靴などを買いに行った時も、デザインは決まっていました。うさぎ、ねこ、鳥、犬ならいらない! というのです。まゆかはどんな洋服でも、ぞうのデザインか、絵が必要でした。あの頃日本で人気のあった子ども服のデザインは、くま、うさぎ、ねこや犬。まゆかがなぜ、そこまでぞうにこだわるのかとても不思議でしたが、ようやくわかってきました。
最初の保育器での出会いと、安心できるぬくもりがぞうだったんですね。だから、ぞうが一番大好きなものになったのです。動物園に行くと、必ずぞうのところまで行く子どもでした。

 



まゆかのぞう(左・35歳)と、私の人形“テリー・リー・ドール”(右・65歳)。
敷いているのは、私の母が編んでくれた毛布です。

「赤ちゃんはよく見えていない、わかっていない」と思われがちですが、私はそれを信じていません。小さい時から理解する力は絶対にあります。私たちが考えている以上に、赤ちゃんはいろいろ理解できるし、理解していると思います。
大人になったまゆかは今、ぞうを助ける運動を続けています。Youtubeにぞうや、絶滅が危ぶまれる動物のための歌なども作ってUPしています。保育器にいるときに、ぞうがまゆかの心に話しかけたのかもしれませんね。

また、娘たちはぬいぐるみだけでなく、生き物も飼いました。生き物の命は動物の状態によって短く、また長いものです。
生き物のおかげで、子どもはたくさんの大切なことを学びます。素直な気持ちや思いやりなども覚えていきます。えさをあげることやうんちなどをきれいにすること、毛の手入れ、散歩することなど、動物を世話することは大変な、大切なお仕事です。
わが家では、小さい時にはクワガタや金魚などを飼っていましたが、2人が小学校のころにはまず、ハムスターを2匹飼いました。名前はHustleとBustle。のちに14匹も生まれ、とても忙しくなったのを覚えています。
Bustleは人の指をよく噛みました!  Hustleの方が優しかった。やがて時間が流れ、ハムスターたちは天国へと旅立ちました。子どもにとって「死」は心苦しく、つらい思い出です。一生懸命大切にしていた命がいなくなるのは本当にさみしいです。悲しい人生の勉強ですが、そのような体験があるから、命の大切さを学ぶことができるのだと思います。

そのあとは、いろいろな犬を育てました。親友から2匹の白い犬LuckyとJuniをもらいました。娘たちは2匹とも大好きでしたが、ある日Juniが逃げて行ってしまいました。
その頃、小学校の男の子たちがよく家に訪ねてきて、犬たちにいたずらをしていました。多分、外のゲートを開けたのだと思います。娘たちは泣き続けました。いくら聞いても探してもいなかった、悲しい思い出です。そのあと、友達からかわいい茶色の犬、ミニチュア・ピンシャーの赤ちゃんをもらいました。名前はアンバーです。駒沢公園でよくいっしょに遊びました。アンバーの足はとても早く、胸まで飛んできてくれました。家族はみんな、アンバーのことが大好きでした。しかし、引っ越しをすることになり、引っ越し先で犬は禁止されているため、2匹は千葉に住んでいる方にお願いしました。
千葉まで会いに行きましたが、そのあとに別れることが犬たちにも私たちにもとても悲しいので、会いに行くのをやめました。とても残念でした。また、その方の奥さんが食べ物をあげすぎて、アンバーがすごく太って危ない状態になっていました。かわいそうでしたが、文句を言うのは難しかったです。動物を飼うことにはやはり、責任があります。最後まで自分たちが面倒を見て愛するべきだと思います。

離婚の後にいろいろ考えて、犬を買うことにしました。多摩川園駅(現・多摩川駅)のすぐ側にペットショップがあり、そのショップの窓にとてもかわいいライオンのような子犬がいました。その犬は日本の柴犬とラブラドールのミックスでした。娘たちはその犬を見て“お願い!”と言いました。実は私もその犬を見てすぐ欲しくなりました。1000円で買い、入れる物がなくてダンボールに入れて連れて帰りました。駅のホームで犬を見て、名前を決めました! ライオンのようなのでシンバーにしました。シンバーの耳はとても大きかったです。日本語も英語もよくわかる、とても賢い犬でした。シンバーは寒がりで、ヒーターの前に座ってからだを温めていました。おもしろく、優しい犬でした。友達が家に来るといつも喜んで迎えてくれ、友達にも大人気。それから何でもすぐ覚えてくれました。お手! お座り! 横になること、握手、ハイハイなど。楽しくやりました。

その後、アメリカへ引っ越すことになり、娘たちとシンバーを先に私の両親のところへ行かせました。私はしばらく経ってから行く予定でした。シンバーはアメリカの庭を見て喜んで、穴ばかり掘りました! また、猫が嫌いなため、庭に来た猫を追いかけました! 私がシンバーに「お父さんを守って」とお願いすると、娘たちが学校にいる間にもシンバーはお父さんの机の下の足元にずっといてくれました。残念ながら主人が亡くなり、その後もいろいろあって、シンバーと娘たちは日本へ戻ってきました。

 



シンバーと、大好きなヒーター!
そのあと、長女のくにみはもう一匹、犬を欲しがりました。自分で働いたお金で白いラブラドールを買い、「カイリ」と名付けました。シンバーは最初、この元気のある子犬が大嫌いでした。カイリは食べることと水を飲むことが大好き! すごいエネルギーのある、元気いっぱいの子犬でした。カイリとシンバーはなかなか仲良くなりませんでした。カイリはシンバーのことが大好きでしたが、シンバーはうれしくないのです。シンバーは私といっしょに寝ましたが、カイリは必ず、3階にある娘の部屋にいました。階段を降りる時、カイリは不思議なことに、カンガルーのように前の両足と後ろの足を揃えて飛びました。
犬たちはしだいに、やっと仲良くなりました。私の仕事が遅くなっても、犬が家にいたため、娘たちは安心でした。また、カイリとシンバーも人間が大好きで、いつも必ずそばにいました。ひざの上、となりなど、本当に暖かく、近くにいてくれました。
子育てファミリーにとって動物は重要。必要なものだと思います。私たち3人にはシンバーとカイリがいましたから、私たちは素直に、優しくなりました。また、3人のつながりはもちろん、犬とのつながりも強くなりました。
動物は食べ物や飲み物、寝る場所があれば幸せです。そして、面倒をみてくれる人間に深い愛をくれます。守ってくれ、話も聞いてくれます。家に戻ると喜びます。何時間待たせても、必ず愛をくれます。動物がいると、家族がハッピーになるのです。

 



シンバー(左)とカイリ。
シンバーは12歳まで私たちとともに暮らしました。亡くなった後の1年間はとても苦しかったです。カイリが、3人の助けになってくれました。カイリは14歳で天国へ旅立ちました。カイリの笑顔、優しさ、元気な姿、愛がいっぱいある気持ちは、私たちのなかからまだ抜けません。海や公園、山などでいっしょに遊んだときの写真や思い出もたくさんあります。悲しいけれど、その時あったことを話すことがお互いのコミュニケーションになりました。思い出すと笑ったり、泣いたり…。自分たちの大切なぬくもりがなくなってしまうことは本当にさみしいですが、ありがたいことに今でもそのぬくもりや思い出は、私たちの心の深いところに息づいています。

 



ぬくもりは今でも、心のなかに…。
子どもはぬいぐるみや毛布、人形、生き物と仲良くすることがあります。その時親は、その子どもが好きになったものを大事にするべきと思います。きっとそれらのものたちが、こどもに何らかの声をかけることでしょう。毛布ならやわらかさや気持ちよさをくれます。人形なら、仲よくすることができるでしょう。ぬいぐるみも抱きやすく、きっと安心させてくれるでしょう。
動物なら、子どもの気持ちをよく読めるでしょう。赤ちゃんも守ってくれるでしょう。赤ちゃんは大きくなります。動物は、成長していく子どもの話を素直に聞いてくれるでしょう。
ものや生き物を子どもが大事にすることだけでも、素晴らしいことです。それが、他の人を大切にすることにもつながっていくことでしょう。