食べ物は文化です。それぞれの家族には、自分たちの食生活や食文化があります。
あなたが、お母さんやお父さん、おばあちゃんやおじいちゃんから教わった、いちばん大好きな料理はなんですか? それを食べたらどんな思い出が浮かぶでしょう。そしてその大好きな料理を自分の家族のためにも作っていますか? その食べ物は教えてもらったものとまったく同じ? それともいろいろ工夫をして、「自分の味」にしたのでしょうか?

アメリカで生まれ育った私の家の料理は、日本の食生活とだいぶ違います。たとえば私が子どものころ、うちの家族は魚を食べる習慣がありませんでした。お父さんが年に一回、友達と釣りに行く機会があり、その時にrainbow trout(ニジマス)を初めて食べました。当時はかにやエビも高価だったため、月に2回ぐらい、母が缶詰のかにとエビをサラダに入れてくれました。それは高級料理でした。お米はインスタントライス(ボックス入り)を食べていました。
時代が変わった今は違うと思いますが、私の思い出の家庭料理はハンバーガー、スパゲッティ、ビーフシチュー, フライドチキン、七面鳥、ハム、
マッシュポテトなどでした。家の裏庭でバーベキューもよくやりましたし、小さいころにはお父さんといっしょに機械を使ってアイスクリームも手作りしました。今でも、その味ははっきりと覚えています。

そのころは、今のようにたくさんのファストフードの店はなかったので、ふだんの食事は家でとるのがあたりまえでした。特別な日である誕生日や結婚記念日には、家族揃ってレストランへ行きました。私の家族が一番好きだったレストランは、ロスの中華街にあった中華料理店でした。
また、ステーキや伊勢エビ、べイクドポテトが大好きだった父に連れられ、ときどきステーキのレストランへも行きましたし、カリフォルニアに住んでいたので、メキシコ料理の店へもよく行きました。どこに行っても、食事はいちばん大切な家族との時間でした。日本と違い、お父さんは夕食の時間には必ず家に帰って家族といっしょに食卓を囲みました。
みんなで食事をしながら、私たち子どもはその日にあったことをお父さんお母さんに話します。お父さんお母さんはしっかり聞いてくれました。家族の会話はとても大事でした。みんなで笑いながら、おいしい食事を食べられるのです。本当に幸せでした。
小さいころからテーブルセッティングの仕方を覚え、食事が終わったら、きょうだいとともに片づけをしました。お皿の洗い方や母の大切な食器のことなども自然に覚えました。
日本の人と結婚したため、私の食生活は変わりました。焼いた肉料理から生または焼き魚の料理に変わり、いもが中心だった料理から米料理へ、チキンスープから味噌汁へ…。子どもたちが生まれると、家庭料理は日本とアメリカの料理が混座っていきました。主人は料理を作ることも、食べることも好きでしたから、いつもたくさん作りました。
私たちの家庭料理の思い出を話したいと思います。

CURRY RICE カレーライス

カレーが大好きです。寒いときでも暑いときでも、いつでもカレーはおいしいです! 子どもが小さいころには、カレーを作るときには必ず2つの鍋を使いました。ひとつは辛くない子ども用、もうひとつは中辛と辛口のルーを混ぜた、大人のための辛いカレーです。
カレーをまったく知らなかったので、初めてカレーを作ったとき、ルーを見てびっくりしました。それぞれの家庭や友達によってもカレーの作り方は違うようでしたが、長いあいだ日本に住んでいたら、カレーという料理は多分一般的な、気持ちの落ち着く料理ではないでしょうか?
子どもたちは保育園や幼稚園、小学校でカレーを食べるだけではなく、先生たちといっしょに作ることもよくあります。カレーは日本にとって重要な食文化なのだということがよくわかりました。
カレーを食べるとなつかしい気持ちが浮かんできます。大人と子どもにもとって、カレーはかけがえのない料理ではないでしょうか。アメリカの友達にカレーライスを作ってあげると喜びます。やっぱりカレーはすばらしい、なつかしい食べ物です。

 

カレーはいつも、こんな大きな鍋2つ分でした!

 

SPAGHETTI スパゲティ

私の母は、スパゲティには必ずミートボールを入れてくれました。私は日本に来て初めて、ナポリタンやイカスミの黒いスパゲティと出会いました。自分にとって、ナポリタンは不思議な食べ物であり、当時の私にとっては名前も不思議でしたが、食べやすくシンプルな味で作り方も簡単。娘たちは大好きでした。
ただ、最初にイカスミのスパゲティを食べたときには、とても食べにくかったです。口の中が黒くなって…。本当におもしろい食べ物だと思いましたが、やっぱりナポリタンの方が食べやすい! と思いました。

HAMBURGER ハンバーグ

アメリカでの私たちのハンバーグには、いろいろな種類がありました。ひとつは牛ひき肉に塩こしょう、ケチャップ、白いクラッカーなどを混ぜて、ハンバーグの形にしてチーズをのせ、フライパンで焼くタイプ。そのまま食べてもおいしいですが、ハンバーガーを作ることもよくありました。パンにマスタードやケチャップ、マヨネーズ、レタス、トマト、ピクルスなどいろいろとはさんで…。
バーベキューならひき肉の中には何も入れず、そのままグリル。スライスチーズやケチャップ、トンカツソースのようなソースなどをかけたハンバーガーも作りました。
日本に住んでひき肉を買いに行くと、合いびき肉などいろいろありました。豚肉と牛肉を混ぜたのはおもしろいですね。合いびき肉は知りませんでしたが、やっぱり味は違うなあと思いました。

ある日、娘たちとおばあちゃんといっしょに、近所の小さなスーパーへ行きました。よく買い物に行ったその店の前では、店長さんがいつもおいしそうな料理を作っていました。
その時には、とてもおいしそうなハンバーグを焼いていました。試食をすすめられ、一口食べたら…とてもおいしかったんです! 店長さんはとても優しい方で、その日のうちにそのレシピを教えてくれました。おもしろい作り方でしたが、家に戻ってすぐ、頑張って作りました。それから子どもが大好きな味でしたから今にも作ります。お客さんが家に来るとか子どもの友達が家に尋ねると娘がいつも注文しました。友達何人にもそのレシピをあげました。娘が家に来ると必ず食べたいと言います。今でもその店長さんに感謝します。

 

日本で教わった、ハンバーグ! 鍋に水をいっぱい入れ、水がなくなるまでずーっと焼きます。不思議な作り方です。

 

ロールキャベツと漬物

カレーと同じように、うちではいつも主人のために、味の違う2種類のロールキャベツを作りました。ケチャップ味としょうゆ味です。一番びっくりしたのは「魔法の隠し味」を入れることでした。
長女が3歳の時に住んでいたカリフォルニアの家には、大きな庭がありました。レモンの木や、野菜を植えるスペースがたくさんありました。そこにキャベツ、ニラ、シソ、キュウリ、レタス、ナスや大根などを植えました。
大きなキャベツができましたが、主人はぬかみそ漬けを作ることができたので、ぬかみその中に庭でできた野菜を入れてお新香を作ったり、ロールキャベツを作ったりしました。
娘は野菜が好きでしたし、庭で遊んだり手入れをしたり、パパといっしょに野菜を育てたりすることを楽んでいました。ぬかみそって不思議ですよね。あんなにくさいぬかに、野菜を入れるとおいしい漬物に変化するなんて! すごいと思いました。パパが好きな食べ物は娘たちも好きになるようで、娘たちも特にキュウリの漬物が大好きでした。
食べることは一番の楽しみ!と感じていました。

コロッケもぎょうざも100個作り!

食べることが楽しみだった主人は、私が知らない料理を作ってくれました。コロッケの作り方もそうやって教えてくれた料理です。
わが家ではコロッケも、ロールキャベツやカレーと同じように2種類の味で作りました! コロッケを作るときには、ポテトとひき肉を使いますが、ひとつはそのままで、ひとつにはカレーパウダーを入れました。子どもと主人といっしょに作っていたので、とても楽しかったです。しかし、3人(主人、娘達)は食いしん坊なので、いつも100個近く作りました!!みんなカレー味の方が好きだったので、カレー味はすぐなくなりました。コロッケが残ったら、次の日のお弁当にピッタリ!
コロッケだけではなく、わが家では大好きだった餃子も、いつも100個くらい作りました。水餃子や焼き餃子にして楽しく食べました。娘が大きくなっ他ときには、作り方も覚えました。笑いながら、食べながら、おもしろかったです。キャベツをいっぱい刻んで、その上においしいコロッケをのせて、子どもたちの幸せそうな笑顔を見たら、自分もうれしくなりました!

 

娘のくにみが作った、たくさんのぎょうざ。写真を見て感動しました。次の時代の親から子へと思いはたしかに伝わっています。

 

家族にとって、食べ物や家庭料理はとても重要です。食べながらすばらしいファミリーの思い出がいっぱい作られていきます。今は家族が忙しいからと、コンビニの食べ物を買ったり、家族がバラバラに食べることもあると思いますが、それはとても残念だと思います。日本にも世界にも、ファストフード店がたくさん増えましたが、これからの家庭料理はどのようになるのでしょう。食事をいっしょに作ること、いっしょに食べることは必要だと思います。
特に日本の料理は最高です。野菜や魚、ライス、味噌汁、お茶などがありバランスがよく、本当に健康的。今、大きくなった娘達は、日本の料理をよく作ります。季節的な料理も大好きです。日本の食事文化のおかげで、とても健康的な料理を作ります。
アメリカの料理も確かにおいしいですが、私たちファミリーの深い食事文化の思い出はきっと、日本での食生活のおかげです。おいしい思い出をくれた日本に感謝しています。そして今月、私の母は90歳になりました。おいしい思い出をありがとう!

 

カレーの仲間たち! カレー大好き!