FIRST 5 California
―タバコ税と子育て―

いよいよ11月ですね! 一年は早すぎて、それぞれの季節が川のように目の前に流れて行きます。もう少しゆっくり流れたらいいのに…! 今回は、前回の続きの「初めてのこと その2」として、いろいろな季節の「初めての思い出」をお送りしたいのですが、その前に、アメリカ・カリフォルニア州で行われている「FIRST 5」というプログラムを紹介したいと思います。大変素晴らしく、おもしろいものです。

カリフォルニアに行ったとき、テレビで珍しいCMを見ました。 それは「TALK. READ. SING. ©」 のCMです。お母さんが赤ちゃんを抱っこしながら、買い物袋からにんじんを出して、赤ちゃんに向かって一生懸命話しかけます。パパは赤ちゃんに絵本を読み、それから両親揃って赤ちゃんと歌います。一方、最後の映像に出てくる別の親は、ソファーに座り、夢中になってずーっと携帯をいじっています。部屋の奥で、さみしそうな幼児がベビーベッドに立ち、じっと親の方を見ています。

 

TALK. READ. SING. ©
“Your words have power.”
あなたの言葉には力があります。

CMに込められたメッセージは明快です。子どもの脳が発達する0~5歳ごろは、なんでも吸収する時期。そのころには必ず「Talk. Read. Sing. © (本を読んであげること、歌うこと、話しかけること)」が必要だというものです。

カリフォルニアは、子どもをもっとも大事なものととらえています。このプログラムの研究では、子どもの90%の脳の発達は0−5歳の間で、さまざまな体験や経験、親とのかかわり、食生活、からだを動かすこと、そして愛にも、脳の発達に関係する大切な役割がある、という結果が出ています。私は、このCMを見て感動しました。コミュニケーションはとても大事で、現在のようなデジタル時代には親子のつながりは特に重要です。このCMがFIRST 5 California (ファーストファイブ、つまり0~5歳の時期)の活動であることは、あとから知りました。このFIRST 5プログラムは1998年に始まり、そのプログラムの運営の支援は、タバコ税によるものなのです! カリフォルニアでは、ひと箱のタバコに50セントの税金がかかります。そのお金を使い、子どもや親、先生の教育とケア、食生活の教育など、さまざまな素晴らしいプログラムが行われています。 日本にもこのような活動があれば大変いいのではないでしょうか。タバコ税を有効に使う、素晴らしい考えだと思います。どこの国でも子どもはFIRST! とても大切なものなのですから。

カリフォルニアFIRST 5サイト:www.first5california.com

 

初めての海での SANDPLAY.
砂遊び

あなたの一番好きな季節は何ですか? 冬? 春? 夏? 秋?
私は日本なら、秋と春が大好きです。短い季節ですが、秋は空気も食べ物もおいしいですね。また、春は桜やそのほかの花が大好き! 南カリフォルニアは、日本のように季節がはっきりとはしていませんが、やっぱり夏がいいですね。赤ちゃんを産むと、赤ちゃんといっしょに、親子として初めてその季節を感じられます。

日本に住んでから初めて、本当の“季節”の意味を感じたのは、1980年の8月。留学生のときにも東京に住んでいましたが、親として初めて子どもを日本に連れてきたときの日本の夏の体験は強く印象に残っています。カリフォルニアは気持ちのいい、さっぱりした夏なのですが、東京はまず、とても蒸し暑かったです! 夜中に汗をかくし、蚊取り線香の独特な香りや蚊の鳴き声…。暑くて暑くて、眠れない夜もあります。子どもたちは寝ているとき、本当によく汗をかきました。洗濯物も山のよう! しかし、夏には楽しみもたくさんありました。

カリフォルニアでは海に行き、砂浜で砂の遊びをしました。どんな子どもでも喜びますよね。くにみが小さいとき、初めて海へ連れていったときのことです。

子どもが初めて、広くて青い海の前に立ったとき、どんなことを考えているのでしょう。日本の童謡のように“海は広いな“と感じるのでしょうか。海はどこまで続いているんだろう、どこで終わるんだろう? 小さい足を水に入れると冷たいし、足元の砂は動きます。きっと不思議な気がするでしょうね。砂は柔らかく、冷たい土と違ってザラザラしていて、温かい感じもするでしょう。また、砂は細かく乾燥しているので、指の間や洋服、髪の毛の中にも入ります。貝殻を見つけたり、ぬれた砂をカップに入れていろいろな形やお城などを作ったりすることもできます。子どもにとって砂の遊びはとても楽しいと思います。どこの砂浜へ行っても必ず、子どもたちは砂でいろいろなものを作っています。かもめたちもいっぱいいる海は、子どもにとって本当におもしろい冒険のできる場所です。


初めての砂の感触、覚えているかな?

 

FIRST ROUND WATERMELONS!
初めてのすいか

夏の海はやっぱりいい思い出です。日本へ引っ越して娘が少し大きくなったころ、夏休みに初めて伊豆へいきました。浜には石がたくさんあって、初めてその石や岩のうえに座って、お弁当を食べました。食べ終わったら、もうひとつのお楽しみはスイカ! 娘たちはスイカが大好きでした。

アメリカで育った私にとって、スイカの形はまんまるではなく、大きなフットボールのようなオーバル形。日本に来て、大きなまんまるのスイカの形にビックリしました! まるい形がかわいいですよね。そして、どんな形でもスイカはおいしい! アメリカのスイカの切り方は日本と違いますが、やっぱりおいしい! 今ではカリフォルニアでもまんまるのかわいいスイカを売っています。


岩の上でスイカ!

 

FIRST STEPS ON GRASS
草は気持ちいいのに…!

海へ行けない日は公園で遊びました。アメリカでは公園へ行ったらすぐはだしになりましたが、日本では誰も靴を脱がないのでびっくりしました。私ははだしが大好きなんです。
あるとき公園で靴を脱いだら、おばあちゃんに「靴を履きなさい! はだしはだめよ!」と怒られました。はだしで歩くと草が気持ちいいのに、がっかりしたのを覚えています。
カリフォルニアで長女が歩き始めたころ、公園へ連れていきました。芝生の上にはだしで歩かせるとき、自分のほうがドキドキしました。子どもが歩くようになるまでに、親は一生懸命歩きかたを教えます。でも、いざ子どもが歩けるようになるとそのあとは大忙し! 走り回るし歩き回るし、すぐにどこかに行ってしまう! 大変ですよね。急に部屋からいなくなると、急いで探しに行ったり…。でも、こういう体験で子どもは家のことを覚えますし、親にとってもいろいろと勉強になるのです。


はだしでよちよち、気持ちいい!

 

FIRST FUTON
初めてのふとん生活

東京へ引っ越しをしたときには、保育園は定員いっぱい。次の年まで入園を待ちました。そうして日本の保育園に入ったことは、私たち親子にとって大きな「FIRST」でした。
入園した初めての秋に、娘たちといっしょに保育園の遠足へ行きました。初めて遠足のためのお弁当を作って、楽しかったけれどけっこう疲れました! 大喜びで家に帰り、お風呂に入って二人はぐっすり。

アメリカの家は大きくて、娘たちにはそれぞれ自分の部屋がありました。部屋にはベッドがあり、ふとんを使うことはありませんでした。しかし日本に来て住んだアパートは6畳間2部屋。娘たちはいっしょに、同じふとんで寝ていました。私も娘たちも、ふとんを使う生活は初めて。夜にふとんを出して、朝起きてふとんを干したりしまったりする繰り返しは楽ではありませんでした。アメリカのベッドは簡単で、それに比べてふとんに寝る習慣はときどき大変でした。たとえばカゼをひいたら、ベッドであればすぐに楽に寝られますが、ふとんだと体調が悪くても、まずしゃがむ必要があります。少しつらいときもありました。また、自分たちが使ったふとんを外へ干すことも恥ずかしかったです。自分のベッドを誰にでも見られてしまうんですから! お日さまに当てると確かにふとんはホカホカになって気持ちがいいんですが、私には、ふとん生活は少し大変でした。

でも、いつも隣でぐっすり眠っている仲のよい娘たちの静かな、優しそうな寝顔を見ることは、親として幸せでした。きっとこの記事を読んでいるお母さんたちも同じ気持ちですよね。一日中、少しもじっとしていないような、エネルギーがいっぱいにあふれている子どもたちが、寝るときはコテンと寝てしまう(笑)。眠っている子どもの姿を見て、本当に私のからだの中にいたのかしら?と思うこともあるでしょう。この奇跡には感動します。あの優しい、天使のような寝顔を忘れることはできません。


見てください! 天使の寝顔です。

 

初めてのPUMPKIN PATCH
かぼちゃ畑遠足

長女が生まれて2年経ったころには、サンフランシスコで私が教えている生徒たちといっしょに初めてかぼちゃ畑の遠足(英語ではPumpkin Patch)に参加しました。アメリカではハロウェーンは人気がある日なので、ほとんどの学校の秋の遠足はかぼちゃ畑(Halloween pumpkin)。初めて行ったときには、子どもと同じようにドキドキしました。サンフランシスコではかぼちゃの畑は海に近かったので、遠足のあとには砂浜でお弁当を食べて遊びました。その頃の写真がありますが、これは1979年。そのときの幼稚園の生徒たちは、すでに親になっているでしょうね。そのころの生徒たちとは今でも連絡を取り合い、娘たちとも友達にもなっています。とても幸せだと思います。


かぼちゃがゴロゴロ! 圧巻です。

 

初めてのHALLOWEEN DONUT GAME
ハロウィーン ドーナツ ゲーム

娘たちが小さかったころはまだ、東京でのハロウィーンの活動はほとんど見られず、アメリカのようにはハロウィーンはできませんでした。当時、自由が丘で子どもに英語と体育を教えていた私は、「ハロウィーンドーナツ取り遊び」を紹介しました。長い糸の先に、甘い砂糖の粉をたっぷりつけた大きなドーナツをくっつけます。子どもたちは手を使わずに自分の口でドーナツをつかむゲームです。先生が糸を動かすから、なかなかつかまりにくくて、本当におもしろいんです! 子どもの顔も砂糖の白くて甘い粉でまっしろになり、大笑いできる楽しい遊びです。娘たちも、他の子どもたちといっしょに体験し、本当に喜びました。Pumpkin Patchがなくても、遊びがあれば大丈夫! あの時アメリカに住んでいたら、「トリックオアトリート!」と言いながら近所の家を回ったと思いますが、当時日本にはまだその習慣はなかったので、代わりにHalloweenゲームや遊びを楽しみました。

 

おばあちゃん ありがとう!

Halloweenはなくても、日本の素晴らしい遠足はいっぱいありました! 秋の保育園の遠足は栗拾い、おいもほり、みかん狩り。娘は全部に参加しました。初めてのことなのでとても幸せでした。おばあちゃんも保育園の遠足への参加は初めてだったので、いっしょにみかん狩りなどを楽しみました。おばあちゃんもニコニコでした。

娘たちは、日本のおばあちゃんからいろいろなことを教えてもらいました。おばあちゃんはどこへ行っても、なんでも丁寧に教えてくれました。うちの娘がアメリカ人と日本人なので、おばあちゃんは責任を持って、できる限り日本の文化などを教えてくれたのだと思います。子どもは、おじいちゃんとおばあちゃんの身近にいると、こころや考え方が素直になるような気がします。おじいちゃんとおばあちゃんの役割はとても大事です。たとえ自分の子育てと考え方が違っていても、やっぱり大切な勉強です。感謝しています。

 

栗拾いとおいも掘り

おばあちゃんとは、栗拾いにも行きました。私にとっても初めての体験でした。栗が大好きですが、拾うのは難しいですね。トゲがいっぱいあるから、注意しないと痛い! また、そのときにはうるしの植物を知らずにさわってしまい、肌がかなりかぶれてしまいました。でも栗の味は忘れません。とてもおいしかったです。

また、さつまいも掘りもおもしろかったです。これも、私も子どもも初めての体験。みなさんはきっと何回も経験があるので、普通のことと思うでしょうが、本当に楽しいです。色はキレイだし、形もいろいろあるし、家に持って帰っておいしく食べられます! 保育園や幼稚園では大きなたき火を作って、おいもをアルミホイルで巻いて焼きます。それもすばらしいことだと思います。

秋の空気はおいしく、葉っぱを燃やす煙のにおいに秋を感じます。そこでアツアツのおいもをほおばると、それはなによりも日本の秋! こうした体験を通して、季節の味やすばらしさを子どもといっしょに感じることができ、子どもたちも、季節の楽しみを自然に覚えていくのです。日本の保育園や幼稚園はすばらしいと思います。

 

栗拾いはおばあちゃんといっしょに。

 

私は生まれも育ちもアメリカですので、日本に来てからの毎日は感動の連続でした! 小さいことでもやっぱりおもしろいし、不思議だし、楽しかったです! 日本に住んでいるみなさんは、小さいときから栗拾いやみかん狩り、おいも掘りなどを何回も体験したことでしょう。でも、赤ちゃんを産んでからはきっと、自分が今までに体験したことでも、わが子の初めてのときにはとても新鮮なことと感じるでしょう。子どもの発言や子どもの質問などから、自分自身が新しい発見をし、感動するかもしれません。できるならばぜひ、いっしょに遠足に行ったり、海や山や公園、川に行ってくださいね。

自然はすばらしい先生というだけではなく、自然のおかげで私たちはもっと素直に生きることができるのです。まずは携帯電話をしまって、子どもと同じような気持ちになって、子どもといっしょに、小さなこと、細かいことに感動を感じてください。お互いの心に残る思い出になることでしょう。みなさんにもきっと、たくさん「FIRSTS」があるでしょう。初めての思い出は、最後まで残りますから、ひとつずつ大事にしまっておいてくださいね。

今年は11月から12月にかけて日本にいる予定です。保育園や幼稚園も訪ねるので、今からワクワクしています! 秋のおいしいものを食べることも、お腹の楽しみです!!!