夏もそろそろ終わりを迎えます。今年の夏休みは楽しめましたか。レジャー費がかさんだために、8月は「貯蓄ができなかった」とか「赤字になってしまった」というご家庭も多いのではないでしょうか。いっぽう、赤ちゃん連れで遠出するのは大変だからと、ゆっくり過ごされた方もいるかもしれませんね。

妻が家計の状況をまったく理解していないのは、キケン

さて今月は、少し前に家計診断をした“あるご家庭の話”を取り上げたいと思います。

そのご家庭は、会社員のご主人に専業主婦の奥様、幼稚園に通うお嬢さんが2人います。ご主人は金融機関にお勤めで、年収は高め。住まいは、マンションから一戸建てに住み替えたばかりで、高い年収に合わせて家のローンも高額になっていました。

このご家庭の問題点は、主にふたつ。ひとつめは、奥様はご主人から生活費をもらうだけで、ご主人の手取り月収や口座から引き落とされているさまざまな費用、保険の加入状況、貯蓄の現状などをまったく知らなかったことです。

奥さまいわく、「主人はお金遣いが粗いので、貯蓄はどのくらいあるのか何度もたずねているんですが、そのたびに『心配することはない。やりくりが厳しくなったら、この家を売ればいいんだし』といって教えてくれないんです。家を売るといっても、かなりのローンが残っていますから、手元に残るお金はほとんどないはずなのに、はぐらかされたままです」とのこと。やりくりするには十分な金額をもらっているので、あまり詰め寄って、ご主人の機嫌を損ねたくないそうです。

家計診断をしていてよくあるのは、「おまえは心配しなくてもいい」といってお金の話をはぐらかすご主人は、貯蓄をあまり持っていないという現実。年収が高いとしても、貯めている気配がないのは家族なら感じるものですし、生活コストが多ければ、貯蓄を順調にふやすのは難しいからです。

小学校受験で、貯蓄が底を突く可能性がある

問題点のふたつめ。これが今回、取り上げたいポイントでもありますが、ご主人はお子さんを2人とも、小学校から私立に進学させたい希望をお持ちです。小学校受験を否定するつもりはありませんが、ご主人はもうすぐ50歳。一般的な定年が60歳だとしても、支店長のような役職に就けなければ、50代半ばで収入が大幅にダウンする可能性があります。実際に50代半ばで年収がダウンすれば、2人のお子さんが私立小学校に通っているあいだに、年間収支が赤字に転落する可能性が高そうなのです。

私立小学校に2人のお子さんが通い始めたら、大学を卒業するまでの10年以上、年間200万円を超える教育費がかかり続けるのを覚悟しなければなりません。現状の家計でも、貯蓄がそれほどできていないようすなのに、今のまま突き進めば、教育資金の負担で貯蓄が底を突く可能性も低くないと思われます。

長期の資金計画を作成して、冷静になることも重要

奥様は、「小学校受験は負担が大きいから、中学受験にしてはどうか」とご主人を説得したこともあるそうですが、「かわいい娘たちには、小学校から良い教育を受けさせたい」といって譲らないのだそうです。夫婦の話し合いは平行線のまま、小学校受験を迎えてしまいそうです。

ファイナンシャルプランナーとして難しいのは、各家庭の「教育についての考え方」までは口を出しにくいこと。お金の面では無理していると感じても、「教育の質を優先したい」などの領域には踏み込むべきではないことです。

そこで、このご家庭におすすめしたのは、受験する前に生活設計表などを作成して、貯蓄の推移を計算してみること。たとえば日本FP協会のHP(https://www.jafp.or.jp/know/fp/sheet/)には、無料でダウンロードできるキャッシュフロー表(年間収支を自動計算してくれるシート)があるので、「ぜひシミュレーションをして欲しい」と伝えました。家計の将来像を数字で確認するのが、頭を冷静にできるコツだと考えたからです。

小学校はともかく、中学受験など通常よりも早い時期に私立受験を考えているご家庭では、私立校に進学した後の収支を把握するためにシミュレーションを実行してみることをおすすめします。かわいいお子さんのための受験であっても、貯蓄が底を突くような事態が起これば、奨学金を借りるなど、結果的にお子さんにしわ寄せがいきかねないからです。